キッドナップ・ツアー

話が淡々と進むのは著者らしい。父の身勝手な動きに順応し始める主人公の姿は、同時に父親との親睦の深まりや成長を思わせ、見所といえるかも知れない。明かされずに終わる話があるのだが、それが生む今作への結果はプラスとなったのかマイナスとなったのかに判断しかねる。

夏休みは命がけ!

無関係な主人公が誰かに巻き込まれとんでもない目に遭う、といった形の話は私の好物であり、今作品はそれである。設定に魅力が感じられるだけで、綴られる詳細な内容には新鮮味も感動も共感させるものもなく、映画のノベル版といったような軽薄さを感じるが、勿論それは汚点としてみるべきではないだろう。

土の中の子供

共感や感動などといったメッセージ性がある内容ではないのだとうろ思われる、恐らく。酷く負な話。しかし、なんだろう、面白味がある。収録作【蜘蛛の声】を気に入った。所謂精神異常者を主観から描いているのだが、私がおかしいのか思わず主人公に共感を覚えてしまった。一読を薦める。

東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~

著者の半生を綴った作品。捉え方に個人差が生まれるだろう文体だが、私は一種の美しさを感じた。母と著者との接しなどがユーモアある文章で語られ思わず笑いが漏れることも多々ある。そのような愉快な母親との出来事などが、継続され綴られるが故に、最後には確かに感動を覚える。

リアル鬼ごっこ

自主出版も頷けるくらいに、文章が下手。内容も、大まかな設定だけを思いつき、それを描きたいがために無理に小説とした印象。そのため、詳細な人物設定、情景などなどが軽薄。しかし、単純でけれど妙に恐怖感を覚えるその設定は、或いは魅力があるのかも知れない。様々な意味で【賭け】な作品。

サマー/タイム/トラベラー

青春の1ページを描いたかのように、ほのぼのと話は進んでいるようにみえるが、本質は大きく現実とはそれた内容。描かれる高校生の日常や心情は共感できるほどに現実的だが、巧い具合に非現実が共存している。【奇妙で不思議な平凡】が巧く描かれている。オチは賛否が分かれそうだ。

アンダカの怪造学

全体に王道、新鮮味はない。しかし、故に立派なライトノベルファンタジーの教本といえる。個々のキャラや話などにも強い個性や面白味はあるのだが、どれもが既存の作品として目にしたことのあるように感じる。だが、決して飽きることはなく、ベタが故に面白く夢中となれる。作者は吸収能力に異常に長けているのではないのだろうか。